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工房便りダヨ〜ン^^;;
 

新プロジェクト Blackie1/3

2010.3.17 
 
 

先日、杉並区に在住しておられるお客様から1/3Guitarのご注文をお受け致しました。^^;; それはエリック・クラプトンのBlackie1/3です。以前にもそれらしき物は作ったことがありましたが、今回はリクエストに合わせ、ダメージ状態など忠実に再現することにしました。これから約一年を掛け製作してまいります。そこでまずは、Blackieについて少しレポートしてみましょう。(写真は31年前に私が購入していたレコードです。^^;;

もうご存じの方も多いと思いますが、エリック・クラプトンが設立したドラックとアルコール依存症のリハビリ施設「クロスロードセンター」を支援するため、2004年に行われたオークションで95万9500ドルで競り落とされました。落札したのは楽器店を経営している「ギターセンター」でした。これは、日本円でいくらになるのか。今は為替が変動しているため、ざっと計算しても8,630万以上という金額になります。驚きだよね。その後フェンダー・カスタム・ショップは復刻版として2006年、限定275台を販売しています。ツアーケースまでをもコピーしたもので、日本にも何台か売られたことでしょう。

さて、これらの事情は他のサイトでも調べられるので、あえて書きません。製作にあたって一番必要なのは、どんなストラトキャスターだったのか!ということです。その2004年に行われたオークションでは、A4版ぐらいの綺麗な写真付きのカタログが出ていました。入手は出来なかったものの、2004年7月号のプレイヤーで見ることはできます。長年使い続けたダメージが全体に広がり、塗装の剥がれ、特に裏側ベルトバックルによるダメージが印象的でした。これらダメージを意図的に施すことをレリック加工といいます。

では、細かく見ていきましょう。(実物の写真はこちら)

 
ボディー
 
 
せっかくフェンダー・カスタム・ショップがコピーモデルを販売したこともあり、それを具体的な資料にすることにします。また、2004年7月号のプレイヤー誌では、本人からのインタビューが掲載されています。
その手元にある資料によると、彼は当時1本100ドルで6本を購入。手元に残った3本で状態のいいパーツを組み合わせBlackieを仕上げた。と、あります。当時、ストラトキャスターは人気がなく、一時期フェンダー社は生産を中止す
ることも検討されていたと聞いています。それにしてもビンテージが1本100ドルとは安い!(注!写真はフェンダー・カスタム・ショップによるレプリカです。)
 
 

ボディーは1956年製造でアルダー材を使用しているようです。ストラトキャスターが発表されたのは1954年4月ですが、正式に量産されるようになったのは同じ年の10月です。最初使われたボディー材はホワイトアッシュでした。しかし、1956年からアルダー材に変更されています。ただ、サンバーストなどのように木目が強調されるようなタイプはアッシュを使い続けています。これはアッシュのほうが木目が美しいためです。同時にこの当時からオリジナルのカラーで仕上げるというカスタムサービスを始めています。つまりBlackieはまさしくこの時期に生産されたことになります。塗装は典型的なニトロセルロース・ラッカー仕上げです。発表当時で47年もの時間が経過しているため、全面に渡り細かなクラックが入っています。このクラックは最初、仕上げで塗られるトップコートに現れます。勿論使い続けたダメージもあります。クラプトンは1973年から15年間に渡り、常にこのBlackieを使い続けたそうです。勿論大切に使われた愛機ですが、一度だけステージで抱えた状態のまま俯せに倒れたことがあったそうです。ナットがはじけ飛んだ!とインタビューでも書かれてあります。よく見るとそのときに作った傷の痕跡らしきものも見受けられますが、確かな情報はありません。

 
メイプルネック
 
 
エリック・クラプトンと言えばワンプライ・メイプルネックしか浮かばない程、今ではイメージも定着してしまいました。ネックは1957年製造と資料にあります。ここで写真から読み取れることは、まず普通のネックです。別にバーズアイでもなければ、キルトでもありません。普通のハードメイプルでしょう。インタビューによれば、アールが当時独特のVシェイプになっており、彼好みだったとあります。写真からも読み取れます。ここで思ったのは、指板面に比べてもアール側が意外と綺麗なことです。塗装が剥げてしまった様子も差ほど感じられません。
フロントサイドは、非常に個性的です。指板面は指で摩耗してしまい、まるでスキャロップ加工が施されたかのように抉れていた。と資料にはあります。こんな状態になるまで弾き続けるとは、さすが世界のトップミュージシャンの歴史を感じてしまいます。どうやって再現すればいいのか、腕の見せ所でしょう。ヘッドに付けられたタバコで焦げてしまった焼け跡は、カッコ良ささえ感じてしまいます。スパゲッティーロゴのシールの剥げ具合や染みの状態など、非常に興味を引かれます。ここで一番目を引いた
のは、6弦ポストからナット方向にかけてと、3弦ポストから2弦ポストへかけ、ブロックを埋め込んだリペアの痕跡がみられることです。プレイヤーのインタビューによれば、購入した当初からあのようになっていた。とありました。これは事実でしょうか。まさか中古を購入したとは考えにくいことですが・・・それにしてもタバコの焼けこげが激しいですね。^^;;
 
パーツ類の目立った特徴
 
 
まずは、ブリッジを見てみましょう。クラプトンはアームは使いません。そのためボディーとの間にブロックを噛まし固定していたと聞いています。裏側から見ると、アームホールへ赤いハートマークのシールのようなものが張ってあります。どんな経緯で張られたのは謎ですが、ユニークです。Blackieがステージデビューしたのは、1973年ロンドン・レインボーシアターでのライブでした。この時、遅刻しかけたクラプトンはトレモロアームを付けたままステージ
 
 
へ上がったそうです。アームを付けた姿は、おそらくこれが最初で最後だったでしょう。
スチール製のサドルは6弦側へ掛け錆が出ています。ミュートなどで汗が一番付着する場所です。そして明らかに、3弦に当たるサドルだけが新しい別の輝きを見せ、交換されているのが読み取れます。この当時のシンクロナイズド・トレモロユニットは初期タイプのもので、プレス加工されたスチール製でした。
 
 
マシンヘッドは1弦のギヤーボックスだけがゴールドです。ボックス中央にKLUSON DELUXEと一列に文字が入るタイプ。56年ぐらいから採用されています。(注意!写真はレプリカです。)その他の金属パーツに関しては、これといった印象は受け取れません。コレクターが収集していたものとは違い、実戦で使われたことから、不具合が生じてきたものは全て交換されたものと考える方が自然でしょう。
 

補足)マシンヘッドについて後述します。1956年量産体制になってから上記の通り、KLUSON DELUXEの刻印が入ったタイプに変更はされましたが、このBlackieに関しては#3だけ左の写真で見られるオリジナルタイプで?、あとのものは上記写真の通り、刻印が無いものに交換されていると考えられます。ひょっとしたら全部が交換されているとも考えられますが、どこのメーカーなのかは不明です。何故ならクルーソン社は既に倒産しており、ロゴ入り

のタイプは現在では韓国や台湾が生産していると聞きました。しかし、頻度に欠けることから、GOTOではないのかと考えられます。現在生産されているGibson社のギターは、GOTOを使用していると聞いています。そこで調べたところ、見つけました。GOTO社製のクルーソンタイプの中にロゴの刻印がないものを。^^;; (注意)写真はBlackieではありません。
 
プラスチックパーツに関しては、すべて交換されている。と資料にあります。ごもっともです。何故なら当時使われていたプラスチックは、破損しやすく50年後半に掛け、耐久性の強いものに変更しています。フロントPUサイドは、よく割れてしまったものでした。ピックアップカバーが演奏ストレスで削られた状態が見える程度ですが、ピックガードは新品にさえ見えます。初期の8点止めです。そのため、ボディー側のキャビティーも8点用の初期カットになります。
(写真はいずれもレプリカです。)
 
Blackieの準備
 
  ボディーの仕込みです。54年生産が開始された当時はまだ手作業が多く、ボディーアール処理も丸みが強い印象を受けますが、56年から量産体制になり、若干ですが丸みは弱くなります。そして、年代と共にアールは弱くなり角張ったイメージに成っていきます。今回キャビティーはジグを製作したため、正確に同じ彫りが出来るようになり、見た目にも美しい仕上がりが期待できます。
 
  分かり辛いですが、特徴的なベルトバックルによる摩耗を、この段階で付けてしまいます。当時のボディーシェイプはかなり深いもので、まだまだ手作業の部分が多かったと聞きます。そのため一貫性に欠き、逆に年代性を見分ける特徴となります。まだ下地シーラーは塗られていません。しばらくこのまま放置し、木肌が焼けるまで待ちます。その間に塗装の準備をしなければなりません。
 
  ネックはハードメイプルから削りだします。手元にあるハードメイプル材は、約10年前に仕入れたもので、この二本分しか残っていませんでした。年月が経過しているため、表面は太陽光で焼け変色しています。奥に見えているネックは、同じ素材で作られたワンプライネックです。製作したのはもう6年以上も前でした。ブッシュとフレットが埋め込まれており既に完成していますが、今回のコンセプトに合わないことから使用しません。
 
  シンクロナイズド・トレモロユニットの準備風景です。ブリッジブロック部は5mmの真鍮板から削り出します。角のアールは機械で削ります。縦方向に開けなければならない貫通抗が難しく、開けなければならない穴径は0.8mmです。これがボーリングが長いため、必ず曲がってしまいます。これらを解決しなければなりません。全部で都合10個分切り出します。
 
 

今回は他の目的もあり、機械にセットできるサンダーを自作しました。前々から作ろうと思っていたんですが、いつも間に合わせで代用していました。コンターなどのR加工は格段に楽になり、尚かつ正確に直角を維持できます。シャフトは8mmの快削鋼から作りました。サンダー部はABS樹脂へゴム板を張り付け、#240の布ペーパーを貼り付けてあります。

 
次回からは具体的な作業を報告します。レリック塗装の方法など、解決しなければならない問題もあります。ご期待ください。^^;;
 

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